商店街活性化への試み


陸 正
Masashi Kuga


「みんなが元気になったのですよ。」
「もう一度やってみょうという気持ちがふつふつとわいてきたようです。」

今年の春、社会調査法の授業で大学近辺の商店街を対象に「商店小史の研究」をはじめた。
3店のインタビューが終わり、そのホームページをつくり商店主の皆さんに見てもらってからしばらくしてから伝え聞いた反応である。
何事でもやろうという気持ちがでてこないと前へ進まないことは長い人生で経験ずみではあるが
改めて『元気がでてきた』という言葉を新鮮に感じた。

千葉商科大学がある市川市国府台には、JR市川駅北口から広がる4つの商店街がある。
昨年から市川市と政策情報学部との間でひとつのプロジェクトが始まった。
パートナーシップによる商店街活性化である。

そのひとつの試みとして昨年の秋に商大生7000人を対象に
市内外の商店街利用とどんなお店があったらよいかを中心に意識実態調査を実施した。
その報告会を地元の商店街に声をかけて学生たち中心で行った。
終わった後の懇談の中で個々の商店と密着した形で何かお役に立てることがないかを話し合った。
その結果で出てきたのが商店街のホームページの作成であった。
単なる商店街の紹介では芸がないので授業の中で興味深くできて学問的にも新分野を開けるという展望で
「商店小史」を作って見たいと提案した。その場では結論が出なかった。

新学期が始まる直前、商店連合会の広報担当の方からぜひ取り組んでほしいと電話があった。
受講を希望する学生たちと話し合いみんなでインタビューフローをつくり、
役割を交替しながら、1商店1時間のインタビューを行い、テープを起こし、要約を作り、
お店の写真を撮ってホームページを作ることとした。授業2回で1商店のペースで進めていった。
あらかじめインタビューフローにそって下調べをしてきてもらった上でのインタビュー、
2回目からは次の商店主に同席してもらう形をとった。

創業、発展、現状、品揃え、商店街のイメージ、環境問題、今後の抱負、商大生への一言が主な内容である。
1学期5店のペースで継続して地道に続けていこうと考えている。
駄菓子屋の宮崎商店、食品・雑貨の卸・小売の広岡商店、ホリエカメラ、肉の米久、フレッシュマートあるがの5店が春学期の成果である。
たった5店ではあるが戦前戦後の日本経済の縮図として地域の様子とその変化が浮かび上がってくる。
関東大震災、東京大空襲が市川への人口流入の要因になったこと、
昭和50年のダイエーの進出がそのチラシの配布範囲にある商店街の客足を遠ざけ、
売上が減少し、たくさんのお店を廃業に追いやったこと、
生活様式の洋風化が呉服屋、下駄屋、桶屋、ブリキ屋など旧来の業種を消していったことなどである。

残っている商店は何に生き残りをかけているのか、そのいくつかの工夫や特色ある商業活動を取り上げて見よう。

駄菓子屋の宮崎商店はおもちゃのリサイクルという新しいアイデアを店頭で実験し始めその可能性に自信を持ち始めている。
また小学生を中心とした駄菓子の顧客に商売を度外視して居心地のよい場所を提供している。
子供のしつけにも心を砕き街の教師の役割を果たしている。

広岡商店は重いものを運べない老人世帯、灯油切れに時間的に対応できない単身世帯に対し
これも商売を度外視した灯油のきめこまかい宅配を行っている。
肉の米久は学校給食への納品、良質な材料を使ったヤキトリを工夫している。
ホリエカメラは高級カメラ「コンタックス」を取り扱い、一味違ったサービスを行っている。
フレッシュマートあるがは産地との直接取引きで新鮮な生鮮品を提供し、1日500人の来店客を集めている。
また弘法寺、手児奈霊堂など地域の催事の企画運営に商店街として取り組み、
肉の米久はヤキトリ店を積極的に出店している。この夏の手児奈ほうづき市は大変な人出で往時のにぎわいを再現している。
この商店小史を作る試みが20店も集まればもっと多面的にいろいろなことがわかってくると思う。

このホームページを見ていろいろな人がいろいろな感想、意見を書きこんでくれるようになるだろうう。
現にオープンキャンパスに来た高校生がこのホームページを見て
「この厳しいご時世のなかで昔のように繁栄したいという個人商店の苦労がよく出ていました。
その中でフレッシュマートあるがさんの若い風を入れてほしいという意見には
昔の繁栄していたときのプライドを捨てて今をどうするかという姿勢にとても共感しました。
そして自分たち商大に入れたなら政策をたて街の活性化に努めたいと思いました。」
と感想をメールしてきている。

さらに商店主の人たちが他のお店のホームページを見てそんなこともあったのか、
そんな試みがあるのかなど情報交換の中から元気づけられ、勇気づけられることと思う。
古代からの連綿とした歴史を持つこの地に老若男女が集う文化的な祭事が往時の盛況を再生し、
清潔で安全な、歩いていける商店街が復活し、買い物、飲食だけでなく快適な居場所を提供してくれることを願って
その前提づくりに取り組んでいこうと考えている。
マーケティング的な発想に基づく商店街再生への小さな実験は、みんなが元気になり勇気づけられてから始まるものと思う。
もう一つこれが地域史に一ページを開く「市川学」への小さな一歩になれば幸いと思う。

陸 正